作家江宮隆之氏が須坂藩主の死の謎に迫る〜「トップの責任追及し切腹」

2013-10-19 07:00 am by 須坂新聞

趣味・生活 icon 歴史小説『将軍慶喜(よしのぶ)を叱った男 堀直虎』の著者江宮隆之さん(作家、山梨県)は先ごろ、「最後の将軍・徳川慶喜を叱った大名 堀直虎の義」と題し、市中央公民館で講演した。市民ら約300人が詰めかけた。講師は「直虎公は(大政奉還後、鳥羽伏見の戦いで負け、兵を残して江戸城に帰った徳川幕府の)トップ(慶喜)の責任の取り方をただし、主君を叱った自らの武士としての責任を取って切腹した」と説明した。
 以下、講演要旨。
 公が慶応4(1868)年1月17日に江戸城で切腹したことは間違いないが、どこで死んだかははっきりしない。風呂場、廊下、老中の部屋、トイレと説があり、確定されていない。しかも2月28日になって、病気で死んだことに。1カ月以上死は伏せられていた。
 場所や原因がはっきりしないのだから、①徳川が徹底抗戦すべきだ、新政府軍と戦うべきだ、と将軍慶喜に迫った②徳川幕府を投げ出して大政奉還したからには恭順し、勤王家としていくべきだ③いろんなことが重なってノイローゼになって―の三つの説があり、検証しても分からない。
 小説は勤王の立場で書くのが一番楽だ。明治に須坂藩が残り、新政府に恭順し、徳川家もギブアップしたのだから、その通りに行動しなさいと言ったとすることが一番分かりやすい。だが、なぜ死ななければならないのか、疑問が湧く。
 戊辰戦争で須坂藩は1万53石の小藩が出す人数以上の人数を出して勇敢に戦っている。まるで一生懸命やってますと新政府に見せつけるかのように、アピールするかのように。
 見方を変えると逆ではないか。勤王の逆の佐幕。直虎公は徹底的に徳川に義を通した結果、死んだ。だから家臣団は藩がつぶされてしまう、堀家も駄目になってしまう、それなら守ると、一藩を挙げて勤王の藩をアピールしたのではないか。公が朝廷の言うことを聞きなさいと将軍慶喜に言った諫死(かんし)と思わせたのだろう。
 ここで初めて私の中で小説を書いたら面白いと思った。
 大勢が言う、朝廷に恭順するということが公の意見だったとしたら小説にはならない。幕末の徳川幕府がつぶれ、新政府ができるギリギリのところで幕府に義を立てて死んだ大名がいたという方がずっと面白くなる。
 当時そういう人がいなかったのかと調べたら、もう一人いた。
 山内豊福という人。土佐山内藩24万石(山内容堂藩主)の支藩の当主。城がなく、麻布にあったことから麻布藩とも呼ばれていた。公の親友だったと分かった。直虎公が切腹する数日前に山内夫妻は心中している。
 麻布の屋敷で理由は何か。山内容堂は慶喜に大政奉還しろと言った人。それによって徳川家は生き延びられると勧め、慶喜はその気になって大政奉還したといわれている。慶喜は江戸城に戻り、山内豊福に対して本家の勧めで大政奉還したら、立場がなくなった、大変な目に遭った、と嫌みを言ってしまった。
 豊福は容堂から兵を率いて京都まで来いと新政府軍に組み込まれていた。麻布藩主の豊福は結局、徳川家と山内本家との板挟みになって苦しんだ揚げ句、夫妻で心中した。
 直虎公は死を知らなかった。風邪か何かで伏せっていて後で知ってびっくりした。
 これも命を懸けて公が何かを慶喜に言おうと思ったことの一つの理由ではないか。
 大政奉還の前に直虎公と山内豊福は、徳川家に義を尽くすことを書面で老中稲葉に出している。それを見て稲葉は直虎公に対して骨のある人と認め、若年寄に任命した。
 直虎公も山内豊福も1万石の小藩だが、徳川に義を尽くすのは今しかないと分かっていて書面を出している。そんな二人が手のひらを返したようにすぐに朝廷に、勤王に行く訳がない。勤王でないということではないが。
 1月17日に直虎公が何事かを慶喜に言い、その後切腹した事実をいろんな状況証拠から考えていくと、新政府に恭順しなさいではなく、徹底的に戦いなさいと言ったと考える方が正しいと思う。
 直虎公は最後の将軍慶喜に直接物申し、しかも叱ったことに対する責任を取って切腹した。男のではなく、武士の責任の取り方として。①あなたは大政奉還した。徳川家をなくしていいのか②鳥羽伏見で戦いを始めておいて負けたからといって16,000の将兵をおいてトップが逃げ帰ることはおかしくないか―と。トップの責任の取り方を追及したのではないか。
 勤王恭順説でもなければ、徹底抗戦説でもない。錯乱状態でもない。武士としての責任の取り方と徳川家の宗家としての在り方も問いかけたと思う。

2013-10-19 07:00 am by 須坂新聞 - 0 コメント



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