2010-09-27 07:00 am by 須坂新聞
慶応義塾大学出版会は先ごろ、『コミュニティのちから―遠慮がちなソーシャル・キャピタルの発見』(四六判、310ページ、定価2,625円)を発刊した=写真。医療費の低い長野県の保健補導員制度を調査し、地域に根付くソーシャル・キャピタル(社会関係資本)が「コミュニティのちから」を形成し、強い主張をしない、引っ込み思案の遠慮がちな共有資源の重要性に注目している。
著者は3人。須坂市を調査した今村晴彦同大学院政策・メディア研究科研究員は先ごろ、同書を持参して市役所を訪れ、三木市長と面談した=写真。
同書は「私たちにも手伝わせてください」と保健補導員制度が産声を上げた須坂市の生みの親、故大峡美代志保健師の活動や、創設50年を迎えた須坂市の25期保健補導員73人のインタビューなどで地域の実情を分析する。
基本健康診査(現在は特定健康診査)やがん検診等の申し込み用紙を配布したり、受診勧奨を行う配り物について「(須坂の場合)郵送やホームページで済ませればいいとの意見もあるが、一軒一軒訪ねる活動こそが保健補導員活動の原点。配り物をきっかけとして地域のつながりを保健補導員自身が体感し、地域住民とコミュニケーションを取って健康状態を把握することが重要」と記述する。
「『半ば強制的に受け入れたお役目』だが『やってよかった保健補導員』の言葉が示すように、終了時には満足感が口に出る」と同書は評価している。
ソーシャル・キャピタルの考え方を一躍有名にしたハーバード大学の政治学者ロバート・パットナムは「コミュニティのソーシャル・キャピタルが豊かであると、そのコミュニティはうまくいく」と主張する。
その後、さまざまな研究者が「ソーシャル・キャピタルが豊かなコミュニティでは、健康状態や治安、子育て環境が良好で、学力が高く、自治体がよく機能し、経済活動が盛んといった傾向を実証している」とする。
日本各地の「いいコミュニティ」事例を観察する時、「確かにソーシャル・キャピタルが蓄積しているが、強い自発性の発露というより、影響を受け、他人を配慮する、やや控えめな、小さな活動の連なりが見られる」。
長野県のソーシャル・キャピタル指数は0.6(全国平均を0とする)で島根、鳥取、宮崎、山梨、岐阜に次いで6番目に高い。
長野県の保健補導員コミュニティは「遠慮がちなソーシャル・キャピタルをつくり出している」「メンバー同士は水平的関係。行政とは一定の階層的関係。義務意識は周囲のみんなに対するもので、お上に対する上下関係で行動することはない。むしろ行政をうまく使ってソーシャル・キャピタルを高めている意味合いが強い」と指摘する。
「少数のリーダー的市民だけが社会を変えるのではなく、より広い層の、積極性が潜在的である多様な人たちにも、役割を担ってもらい、出番を作る形で参加してもらう。多様な人を巻き込み、広い層の人に当事者意識を持ってもらう(保健補導員制度のような)方法は、いいコミュニティを作っていくとき、理念も現実も大変重要な戦略」と強調する。
今村研究員は本紙の取材に「須坂市には時代を証言する貴重な記録が残っていてすごい。インタビューでは皆さんがやってよかった、新しい活動も始めたと口にされ、印象的だった。2年間活動し、再任しない仕組みもすごい」と語った。
著者はほかに園田紫乃同大先導研究センター共同研究員、金子郁容同大学院政策・メディア研究科教授。
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